参議院外交防衛委員会は、外務省、防衛省ならびに国家安全保障会議の所管に属する項目を議論し、また、外交、防衛等に関する国政調査権をもつ参議院の常任委員会の一つです。 伊波洋一氏はこの国会の重要な委員会の役員であり、外務大臣、防衛大臣、官房副長官及び政府参考人に対し質疑を行っておりますが、「反基地」が同氏の政治主張であるのを踏まえても、国民の生命、財産、そして国益を守る責務がある国会議員の発言だと思えないものが散見されます。その中からいくつかをピックアップしてみます。
外交防衛委員会で、日本の軍事力、抑止力を否定する伊波氏
令和4年5月19日に行われた外交防衛委員会で伊波氏は、RCEP協定(東アジア地域包括的経済連携)の履行確保に取り組むと述べた政府参考人の外務省経済局長に対して、以下の発言をしました。
参議院 外交防衛委員会 伊波洋一氏の発言
日本政府は、日中の様々な懸案について、軍事力、抑止力のみで対抗しようとしています。 台湾有事への日本の自衛隊による軍事的関与は、日本の最大の貿易相手国である中国との交流を途絶えさせ、日本の国民生活、日本経済を困難なものにすることは明らかです。 また、沖縄や西日本の国民の生命は戦争によって危機にさらされるでしょう。これらが果たして本当に国益にかなったものかどうか、真剣に考えるべきです。
【第208回国会 参議院 外交防衛委員会 第13号 令和4年5月19日】
この伊波氏の発言を安全保障と経済の観点から、ウクライナ情勢を引き合いに考えてみます。
国内経済が低迷していた2013年のヤヌコーヴィチ政権下のウクライナは、ロシアへの経済依存が強まって行きました。それに乗じたロシアは巨額の経済支援と引き換えにEU接近を踏み止めさせました。このように親ロシアになる事により経済の回復を目論んだウクライナですが、ヤヌコーヴィチ政権が崩壊するとすぐさまロシア・プーチン大統領はウクライナ国境にロシア軍を出動させ、2014年にロシアのクリミア侵攻が起きました。そして、2022年のロシアのウクライナ侵攻に続きます。
現在、ウクライナはEU加盟を申請しています。ウクライナが2013年にロシアに依存せずに対等に外交を行えていたら、そしてEUに参加していたら、かつ、十分な軍事力に基づく抑止力をもっていれば、今回のロシアのウクライナ侵攻は起きなかったと考えられています。
この、伊波氏が発言した外交委員会が開かれた5月19日は、ウクライナのマリウポリがロシアにより「完全制圧」された日であり、投降した959人の運命を案じるセンセーショナルな報道がされた日です。伊波氏は同委員会でウクライナ侵攻に関してロシアを非難する発言をしていますが、侵攻に至るまでの経緯を把握、または直視してるのか甚だ疑問です。
台湾有事 高まる中国の脅威
中国が台湾へ軍隊の侵攻を行った場合、日本は事態対処法で規定されている「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合に該当し、政府の判断により、自衛隊は米軍の後方支援活動を行えます。伊波氏は、この事態対処法を念頭に「日中の様々な懸案について、軍事力、抑止力のみで対抗しようとしています」と発言したものと思われます。
しかし、力を背景とした一方的な現状変更の試みているのは中国であり、既に尖閣諸島周辺海域の中国公船侵入も状態化し威圧行為もエスカレートしています。また、本外交防衛委員会が開かれる半月前には、中国空母など8隻が宮古海峡を通過するなど、日中関係に緊張が高まっています。
コロナとウクライナ戦争で一変した世界
2019年末に武漢で始まった新型コロナウイルス感染は、瞬く間に世界中に感染が拡大し、パンデミックとなり世界情勢に大きな影響を与えました。国際社会は中国の新型コロナウイルス感染症へ初動対応の遅れを非難しましたが、中国はパンデミックを逆手に取るように、感染が急拡大していた国に対し、医療チームの派遣や医療物資の提供、PCR検査キットを提供するなど外交活動などを活発に行いました。また、中国はパンデミック下でも日本を含めて国境での軍事行動を活発化させ、安全保障や人権問題も絡み国際社会に緊張が走っています。
これ対して米国は、安全保障政策及び経済政策上の重点をアジア太平洋地域にシフトしており、国際社会も秩序維持のために連携を強めています。また、日本も全貿易総額の四分の一を占める最大の貿易相手国であり経済のつながりは非常に強い中国に対して強固な経済安全保証、エネルギー安全保証を重視して、医薬品や半導体、レアアース、AIや通信設備等に関して中国から撤退する企業が相次いでいます。
コロナのパンデミックとウクライナ戦争により、国際社会は自国の経済活動にのみ専念せずに、世界の秩序を乱す中国とロシアと多国間の協力体制のもと対峙しています。この厳しい世界ならびに日本の状況下で冒頭に掲載した伊波氏の発言は、現に中国の脅威に晒されている沖縄県から選出された議員として、また、日本国の良識の府である参議院議員としても、全く不見識だと言わざるを得ません。
政治主張を問わず、現状に則する質疑を行えない方に、国会議員の席を与える訳には行きません。